貨幣によって得られる自由もある。失うものもある。
貨幣論ー岩井克人より抜粋
貨幣とは、言語や法と同様に、純粋に「共同体」的な存在である。貨幣共同体ーそれは、なにかを共有することによって形成された社会的関係であるという意味で共同体と名づけられている。だが同時にそれは、伝統的な慣習や情念的な一体感にもとづいた通常の意味での共同体とはその様相をまったく異にしているのである。家族や村落や信者集団や民族国家などのばあいには、社会的な事実としての血縁や地縁や宗教的情熱や民族意識がます先行し、それらの基礎のうえになんらかの共同性をもつ行動がひとびとのあいだに生みだされることになる。これにたいして、貨幣共同体の場合には、貨幣を貨幣として使うというひとびとの行動に先行するなんらの社会的事実も存在していない。ひとびとが貨幣を貨幣として使うのは、ひとびとが貨幣共同体の構成員であるからではない。逆である。ひとびとは貨幣を貨幣として使うことを目的として貨幣共同体の構成員になるのである。その意味で、貨幣共同体とは、利害の一致に基づいて合理的に形成される社会的関係としての利益社会に他ならない。